ブラックホールに、一個のフォトンが落ちると ...

今、ブラックホールに、フォトン(光の粒子)が一個落ち込んだとする。このフォトンは、1bitの情報を持っているとする。
(本当は、フォトン一個は、無数の情報を持ちうるのだが。フォトンの波長を、ブラックホールの地平の半径と同じ程度に広いものにすれば、フォトンの輪郭はぼやけ、それが持つ情報を小さなものにできる)
この時、ブラックホールのエネルギーは、どれほど増えるだろうか? それは、ブラックホールに落ち込んだ、1bitの情報を運ぶフォトンのエネルギーだけ増える。その量は計算できる。
エネルギーは質量に等しいので、この時、ブラックホールの質量が、どれだけ増えるかがわかる。
ブラックホールの地平の半径Rは、ブラックホールの質量Mで決まる。半径がわかれば、その地平の面積の変化を計算できる。
物理学者のサスキンドが、太陽程度の質量を持つブラックホールで、この計算をしている。
1bitの情報を持つフォトン一個が、ブラックホールに落ち込むと、ブラックホールの質量は、10^{-45}キログラム増えるという。小数点のゼロの下にゼロが45個並ぶ数だから、普通なら、無視しても構わない変化だ。
この時、地平の半径は、10^{-72}メーター伸びるという。さっきの変化より、もっともっと小さい。普通なら、無視しても構わない変化だ。
この時、地平の面積は、10^{-70}メーター広くなる。これも、無視して構わない変化だ。
まてよ。
サスキンドは、ここであることに気づく。10^{-70}というのは、プランクの長さ h= 10^{-35}の二乗じゃないか?
そこで、ブラックホールの質量を、いろいろ変えて計算すると、驚くべきことに、どんな質量のブラックホールでも、1bitの情報を持つフォトンが飛び込むと、その地平の面積は h^2 プランク長の二乗分だけ広がるのである!
(一部、脚色あり。)
イメージとしては、こういうこと。
ブラックホールの地平が、h x h のマス目で、びっしり埋められているとする。ここに、1bitの情報をもったフォトンが、飛び込むと、新しいマス目が、他を押しのけて一つ増えるということ。なんか、格好いい発見である。
落ち込んだフォトンの情報は、地平の平面にへばりつくのだ。
これは、「ブラックホールのエントロピーは、地平の面積に比例する。」という、ベッケンシュタインの重要な発見を説明し、さらに詳しく言い換えたものだ。
「ブラックホールのエントロピーは、bitで計測すれば、プランクの面積単位で計測した地平の面積に比例する。」
以前、熱力学的なエントロピー(次元:ジュール/温度)と、情報理論的なbit(無次元)で表現されるエントロピーを結ぶのは、ボルツマンの定数だと説明したのだが、あまり、それにこだわることもないのだ。
「温度とは、1bitの情報が追加された時の、システムのエネルギーの上昇である。」
これは、19世紀のボルツマン、20世紀のシャノンを超える、おそらく、21世紀の科学を特徴付ける、新しい 情報 / エネルギー観である。

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